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マンション管理組合の会計基準
1.会計基準はなぜ必要か
いかなるマンション管理組合にも計算書類(いわゆる決算書)はありますが、その計算書類を作成するに当たって準拠すべきルールを管理規約なり細則に定めている管理組合は多くありません。例えば、計算書類とは具体的にいかなる書類を指すのか、その様式はどうあるべきか、科目はどのようなものを使うのかなど、本来明確にしておくべき事項の定めがないまま計算書類が作成され承認を受けています。
しかし本来は、計算書類を作成するに当たって最低限必要なルール、すなわち会計基準が管理規約あるいはその細則として存在すべきです。そのようなルールがあって初めて、計算書類が正しく作られているかどうかという議論が出来るのです。
2.会計基準の作成は決して難しくない
現在、「一般に公正妥当と認められるマンション管理組合会計の基準」として成文化されたものは存在していません。
しかし、実際に会計業務を受託している各マンション管理会社では、長年にわたり計算書類を作成し、管理組合にこれを提示し続けていることから、各マンション管理会社が長年実施してきた実務慣行としての会計基準が存在することは紛れもない事実です。
この実務慣行のうち公正妥当と認められるものを集約したものこそが、本来「マンション管理組合会計基準」と呼ぶべきものです。
「管理会社毎の会計処理が違いすぎるので、共通の会計基準を作成できない」という声を耳にすることもあります。しかし、本当に全ての管理組合に共通の統一的な会計基準が必要でしょうか。
そもそもマンション管理組合の決算書は、主として内部利用目的(組合員のみが利用する目的)で作成されるものですから、他の管理組合と同じ基準で決算書を作成し、財務数値を比較検討する必要性はほとんどありません。
従って、全ての管理組合に共通の統一的な会計基準がなくとも、各管理組合のそれぞれが、組合員が最も利用しやすい決算書の作成ルールを管理規約や細則として成文化すれば十分なのです。
なお、弊事務所のこれまでの監査経験から、各管理会社の会計処理の相違は、そのほとんどが収支計算書の「資金の範囲」という問題に収斂されるものと考えられます。従って、現行の実務慣行を「マンション管理組合会計基準」として成文化することは決して難しいことではないものと思われます。
3.具体的な会計基準について
それでは、現行の実務慣行を会計基準として成文化すると、具体的にどのような基準になるのでしょうか。
現行のマンション管理組合会計の主な特徴は、➀非営利、➁予算準拠、➂目的別会計(管理費会計と修繕積立金会計などの区分)です。これは特に非営利法人に見られる特徴ですので、マンション管理組合会計基準を策定する場合には、非営利法人の会計基準が参考になると思われます。
現在、公表されている非営利法人の会計基準の中では、労働組合の会計基準と平成16年改正前の公益法人の会計基準がマンション管理組合の実務に極めて近いものと考えられます。
以下は、日本公認会計士協会が公表している公益法人委員会報告第5号「労働組合会計基準」(昭和60年10月8日)をベースに監査法人フィールズが作成したマンション管理組合の会計基準(案)です。
このような会計基準を各組合の管理規約等に定めることで、現状の計算書類の作成根拠を明文化することが出来ます。そこで初めて監事による会計監査の実効性が確保され、公認会計士(又は監査法人)による外部監査の導入も可能となります。
なお、ここで挙げている実例は、管理組合や大手管理会社でも実際に採用されている会計基準です。
管理組合会計基準(案)
【第1 総則】 | 内容 |
コメント |
1. 目的 |
この会計基準は、管理規約第○○条に基づいて、管理組合の収支および財産の状況を適正に把握し、かつ報告することにより管理組合の活動状況を明らかにすることを目的とする。 |
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2. 一般原則 |
管理組合は、次に掲げる原則に従って、計算書類(収支計算書及び貸借対照表をいう。以下同じ。)を作成しなければならない。(注1)
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決算書の名称は各組合で実際に使用するものに変更する必要があります。 |
3. 会計年度 |
管理組合の会計年度は、管理規約で定められた期間によるものとする。 |
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4. 会計区分度 |
管理組合の会計区分は、管理規約第○○条に定める通常の管理のための管理費会計と管理規約第○○条に定める特別の管理のための修繕積立金会計とする。 |
会計区分は管理規約の定めに従う必要があります。 |
5. 計算書類の科目 |
計算書類の科目は、その性質を示す適当な名称で表示するものとする。 |
勘定科目規程等を別表として定めることも考えられます。 |
6. 計算書類の注記 |
計算書類には、その作成に関する重要な会計方針並びに収支及び財産の状況を明らかにするため必要な事項を注記するものとする。 |
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6. 計算書類の注記 |
計算書類には、その作成に関する重要な会計方針並びに収支及び財産の状況を明らかにするため必要な事項を注記するものとする。 |
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【第2 予算及び予算書】 |
内容 |
コメント |
1. 予算の一般原則 |
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2. 予算書の内容 |
予算書は、当該会計年度において見込まれるすべての収入及び支出の内容を明らかにするものでなければならない。 |
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3. 予算書の様式 |
予算書は、別表1(省略)の様式に準じ作成するものとする。 |
各組合で実際に使用する様式を別表として定める必要があります。 |
【第3 収支計算書】 |
内容 |
コメント |
1. 収支計算書の内容 |
収支計算書は、当該会計年度におけるすべての収入及び支出の内容を明らかにするものでなければならない。(注2)(注3) |
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2. 収支計算書の構成 |
収支計算書は、収支の予算額と決算額とを対比して表示しなければならない。予算額と決算額との差異が著しい項目については、その理由を備考欄に記載するものとする。 |
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3. 収支計算書の様式 |
収支計算書は、別表2(省略)の様式に準じ作成するものとする。 |
各組合で実際に使用する様式を別表として定める必要があります。 |
【第4 貸借対照表】 |
内容 |
コメント |
1. 貸借対照表の内容 |
貸借対照表は、当該会計年度末現在におけるすべての資産、負債及び正味財産の状況を明らかにするものでなければならない。(注4)(注5) |
「正味財産」という名称については各組合で実際に使用する名称(「剰余金」、「繰越金」等)に変更する必要があります。 |
2. 貸借対照表の区分 |
貸借対照表は、資産の部、負債の部及び正味財産の部に区分しなければならない。 |
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3. 収支計算書の様式 |
貸借対照表は、別表3(省略)の様式に準じ作成するものとする。 |
各組合で実際に使用する様式を別表として定める必要があります。 |
4. 資産の貸借対照表価額 |
貸借対照表に記載する資産の価額は原則として当該資産の取得価額を基礎として計上しなければならない。(注6) |
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【第5 特別会計】 |
内容 |
コメント |
1. 特別会計の設定 |
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将来新たな会計区分を設定することが予定されている場合に当該規定が必要になります。 |
2. 特別会計の計算書類 |
特別会計を設けた場合は、会計区分ごとの活動状況を明らかにするため計算書類を作成しなければならない。 |
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注解 |
内容 |
コメント |
(注1) 重要性の原則 |
会計処理の原則及び手続並びに計算書類の表示に関しては、重要性の原則が適用される。 |
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(注2)収支及び資金の範囲 |
管理組合の活動状況を明らかにするための収支は、資金の増加を収入とし、資金の減少を支出として計算される。資金の範囲は○○○○とする。 |
資金の範囲は各組合の実務と整合するよう定める必要があります。 |
(注3)収支計算書の総額主義の原則 |
収入及び支出は、総額によって記載することを原則とし、収入の項目と支出の項目とを直接に相殺することによってその全部又は一部を収支計算書から除去してはならない。 |
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(注4)貸借対照表の総額主義の原則 |
資産、負債及び正味財産は総額によって記載することを原則とし、資産の項目と負債又は正味財産の項目とを相殺することによって、その全部又は一部を貸借対照表から除去してはならない。 |
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(注5)貸借対照表に計上する資産について |
管理費会計及び修繕積立金会計の貸借対照表に計上する資産は、管理規約第○○条に定める通常の管理に要する経費又は管理規約第○○条に定める特別の管理に要する経費に充当することが可能な資産とする。 |
管理費会計及び修繕積立金会計の対象とする資産については各組合の実務と整合するように定める必要があります。 |
(注6)資産の取得価額について |
資産の取得価額は原則として購入対価に引取費用等の付随費用を加算して決定される。交換、受贈等によって取得した資産の取得価額はその取得時における公正な評価額とする。 |
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