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マンション管理組合の収益事業と税務
1.マンション管理組合と法人税
マンション管理組合は「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがある」ことから、法人税法上は人格のない社団等に該当します(法人税法2条8号)。
法人税法上、人格のない社団等は公益法人と同様に、収益事業を営む場合に限り、その収益事業から生じた所得に対して課税されることになっています(法人税法3条、5条、7条)。
従って、収益事業を行わない限り、マンション管理組合が法人税を課せられることはありません。
管理組合法人についても同様です(法人税法7条、建物の区分所有等に関する法律47条13項)。
2.収益事業とは何か
マンション管理組合が収益事業を行うと法人税が課せられますが、では、収益事業とはどのようなものでしょうか。
法人税法では、販売業、製造業その他の政令で定める事業(34事業)で、継続して事業場を設けて行われるものを収益事業としています(法人税法2条13項)。
参考:34事業
物品販売業、不動産販売業、金銭貸付業、物品貸付業、不動産貸付業、製造業、通信業、運送業、倉庫業、請負業、印刷業、出版業、写真業、席貸業、旅館業、料理店業その他の飲食店業、周旋業、代理業、仲立業、問屋業、鉱業、土石採取業、浴場業、理容業、美容業、興行業、遊技所業、遊覧所業、医療保健業、技芸教授業、駐車場業、信用保証業、無体財産権提供業、労働者派遣業
従って、マンション管理組合の取引がこれらの34事業のいずれかに該当し、継続して行われている場合には収益事業に該当することになります。
3.マンション管理組合の収益事業例
では、具体的にどのような取引がマンション管理組合の収益事業に該当することになるのでしょうか。 マンション管理組合では以下のような取引を行っている場合には収益事業に該当する可能性があります(以下は例示であり、これらの取引を行っている場合でも、収益事業に該当するか否かは個別に取引内容の実態を勘案して判断する必要があります)。
不動産貸付業 |
携帯電話基地局設置収入 |
---|---|
製造業 |
太陽光発電設備による電力売却収入 |
物品貸付業 |
区分所有者以外から受領する組合備品のレンタル収入 |
席貸業 |
区分所有者以外から受領する会議室使用料収入 |
旅館業 |
区分所有者以外から受領するゲストルーム宿泊料収入 |
駐車場業 |
区分所有者以外から受領する駐車場収入 |
遊技所業 |
区分所有者以外から受領するプール・スタジオ等の使用料収入 |
4.収益事業の実務上の論点整理
上記例示に含まれる取引も含め、実務上は取扱いが不明瞭な側面がありますが、概ね以下のように整理できると思われます(以下は著者の私見であることをあらかじめお断り申し上げます)。
(実費を負担してもらっている場合)
自動販売機、公衆電話、CATV、インターネット設備等の設置に伴って発生する電気代相当額を受領している場合には、立替えた経費を精算してもらっているにすぎませんので収益事業には該当しないと思料されます。
(資源回収助成金や補助金を受領している場合)
地方自治体から受領する資源回収助成金や補助金は、34事業に該当しないため、収益事業に該当しないと思料されます。
(バザーによる収入がある場合)
年間2、3回程度のバザーによる収入は、継続性がないため、収益事業に該当しないと思料されます。
(非常に僅少な収入の場合)
収入が非常に僅少で、常に必要経費が収入を上回ることしか想定できないような取引については、収益事業としての経済的合理性がなく、社会通念上収益事業に該当しないと思料されます。
(区分所有者以外の者が利用する場合)
組合備品のレンタル収入、会議室使用料収入、ゲストルーム宿泊料収入、駐車場収入、プール・スタジオ等の使用料収入等については、区分所有者以外の外部者に自由に利用させている場合には、区分所有者が利用したことによる収入も含めてすべて収益事業とされてしまう可能性もありますので、注意が必要です。
これらの収入が収益事業に該当しないためには、最低限以下の条件を満たす必要があります。
- 区分所有者のための共済的な事業である。
- 当該収入は、区分所有者が共有物を特別に利用している「管理費の割増金」である。
- 当該収入は、区分所有者に分配されず、管理費・修繕積立金に充当される。
従って、区分所有者の関係者に利用させる場合も、管理組合に対する使用料の負担義務者はあくあまで区分所有者としておく必要があります。
参照サイト:国税庁HP
団地管理組合等が行う駐車場の収益事業判定
マンション管理組合が区分所有者以外の者へのマンション駐車場の使用を認めた場合の収益事業の判定について(平成24年2月13日回答)
5.必要経費の範囲
収益事業の必要経費には、当該収益事業のために直接要した費用のほか、非収益事業との間で共通する費用についても、継続的に合理的な基準で按分されている場合には必要経費として、課税所得の計算上、損金算入が可能です。 直接費や共通費は以下のようなものになります。
直接費の例
- 携帯基地局・インターネット設備等が使用する電気料(メーター別管理の場合)
- 外部貸し駐車場の募集に要した広告宣伝費
- 外部貸し駐車場の維持・メンテナンスに係る費用
- 管理組合が取得した太陽光発電設備の減価償却費
- 税務申告のための税理士報酬
共通費の例
- 区分所有者と非区分所有者が混在する駐車場の維持・メンテナンスに係る費用
- 電気料(メーター共通の場合)
- 管理委託費のうち収益事業と非収益事業に共通する費用
なお、共通費の按分については、継続的に、資産の使用割合、従業員の従事割合、資産の帳簿価額の比、収入金額の比その他当該費用又は損失の性質に応ずる合理的な基準により収益事業と収益事業以外の事業とに配賦し、これに基づいて経理することとされています(法人税法基本通達15-2-5(2))。
また、あまり事例は多くありませんが、マンション管理組合として所有する固定資産を収益事業に使用する場合には、当該固定資産の減価償却費は、収益事業の所得計算上、損金算入が可能です。
しかしながら、マンション管理組合として取得していない建物及び建物付属設備、構築物、駐車場設備等は区分所有者の共有物であり、マンション管理組合の所有物ではないことから、減価償却費の計上は不能とされています。
すなわち、管理組合成立後に管理組合として取得した固定資産の減価償却費は計上できますが、分譲時から建物に付帯していた設備は、各区分所有者の所有物ですので、管理組合として減価償却はできないということです。
6.収益事業に係る税金の概要
前述のとおり、マンション管理組合及び管理組合法人は、一般に営利事業を目的とする団体でありませんが、収益事業を行う場合には、当該事業から生じる課税所得に対して、一般の法人と同様に課税されることとなっています。
収益事業を行う場合に考慮すべき税金の概要は以下とおりです。
税金の種類 | 申告・納税義務 |
申告書提出先 |
---|---|---|
法人税 |
収益事業がある場合 |
所轄税務署 |
法人住民税(法人税割) |
収益事業がある場合 |
都道府県税事務所及び市区町村(東京23区は都税事務所) |
法人住民税(均等割) |
収益事業がある場合(管理組合法人は収益事業の有無にかかわらず原則課税) |
都道府県税事務所及び市区町村(東京23区は都税事務所) |
事業税及び特別法人事業税 |
収益事業がある場合 |
都道府県税事務所 |
消費税 |
基準期間の課税売上高1000万円を超える場合 |
所轄税務署 |
固定資産税(償却資産) |
事業用の償却資産がある場合 |
市区町村(東京23区は都税事務所) |
7.税務申告の実務
収益事業開始時の手続き
新たに収益事業を開始した場合には、収益事業を開始した日以後2か月以内に以下の書類を添付して、所轄税務署長に「収益事業開始届出書」を提出する必要があります(法人税法150条、法人税施行規則65条)。
また、都道府県税事務所及び市区町村については、法人設立届出書等を提出することになります(地方自治体により必要書類は異なります)。
添付書類
- 収益事業の概要を記載した書類
- 収益事業開始の日の貸借対照表
- 管理規約
- 代表者が確認できる書類(理事長選任時の総会議事録等)
- 法人設立届出書
確定申告期限及び納付期限
収益事業に関連する税金についての確定申告期限及び納付期限は以下のとおりです。
税金の種類 | 申告期限 | 納付期限 |
---|---|---|
法人税 |
事業年度終了の日から2か月以内(申告期限の延長の特例申請により1か月の延長が認められる場合あり(※1)) |
同左 |
法人住民税(法人税割) |
事業年度終了の日から2か月以内(申告期限の延長の特例申請により1か月の延長が認められる場合あり(※1)) |
同左 |
法人住民税(均等割) |
事業年度終了の日から2か月以内(申告期限の延長の特例申請により1か月の延長が認められる場合あり(※1)) |
同左 |
事業税及び地方法人特別税 |
事業年度終了の日から2か月以内(申告期限の延長の特例申請により1か月の延長が認められる場合あり(※1)) |
同左 |
消費税 |
事業年度終了の日から2か月以内(※2) |
同左 |
固定資産税(償却資産) |
毎年1月31日 |
納税通知書に記載の納付期限(※3) |
(※1)管理規約等で総会の開催期日が事業年度終了後3か月以内となっている等の事由で事業年度終了後2か月以内に決算が確定しない場合には、申告期限の延長の特例申請により1か月の延長が可能である(法人税法75条の2、地方税法第72条の25第3項)。
なお、確定申告書の提出期限が延長されると、納付期限も延長されるが、本来の提出期限から、その延長された期限までの間の未納期間については、利子税が課されることとなる(申告実務においては、本来の提出期限内に法人税等の本税相当額を納付することにより、実質的に利子税の負担を回避することが可能となる)。
(※2)都税事務所又は市区町村から送付される納税通知書に納付期限が記載される。一括払いもしくは分納が選択可能である(東京都の場合は、6月、9月、12月、2月の4回の分納もしくは一括払いが選択可能である)。
中間申告
マンション管理組合及び管理組合法人は、法人税、住民税(均等割、法人税割)、事業税及び地方法人特別税については、中間申告の義務はありません(法人税法2条9号、71条、地方税法53条、72条の26)。
消費税については、前事業年度の確定税額が60万円(消費費税48万円+地方消費税12万円)超の場合には中間申告が必要となります(消費税法42条)。
申告書に添付する計算書類
法人税の確定申告を行う場合には、以下の計算書類を添付しなければならないとされています(法人税法基本通達15-2-14)。
- 収益事業に係る損益計算書
- 収益事業に係る貸借対照表
- 管理組合全体の計算書類
収益事業に係る計算書類を作成するためには、収益事業会計を当初から独立した会計区分として処理する方法と、申告書作成時にのみ収益事業に係る部分を抜き出して作成する方法の2つがありますが、収益事業会計を独立した会計区分している管理組合は少ないため、申告書作成時に収益事業部分を抜き出して作成する方法が一般的です。
8.申告しない場合のペナルティ
期限後申告の場合
収益事業を行っているにもかかわらず適時に申告を行わなかった場合には、以下の附帯税が課せられることになります(国税通則法66条、地方税72条の46)。
項目 | 内容 |
税率 |
---|---|---|
無申告加算税(国税) |
税務調査後の期限後申告 |
納税額の50万円までの部分15% |
無申告加算税(国税) |
自主的な期限後申告 |
納税額の5% |
期限後納付の場合
本来の申告期限(法定納期限)までに税金を納付しなかった場合には、法定納期限の翌日から以下の附帯税が課せられることになります(国税通則法60条、地方税法64条)。
項目 | 内容 |
税率 |
---|---|---|
延滞税(国税) |
納期限(※1)の翌日から2か月未満に納付した場合 |
7.3%と特例基準割合(※2)+1%のいずれか低い割合 |
延滞税(国税) |
納期限(※1)の翌日から2か月を経過して納付した場合 |
14.6%と特例基準割合(※2)+7.3%のいずれか低い割合 |
- (※1)期限後申告の場合、納期限は期限後申告書の提出日となる
- (※2)各年の前年12月15日までに財務大臣が告示する割合に年1%の割合を加算した割合
9.税理士法と税理士業務の範囲
税理士又は税理士法人でない者は、税務代理、税務書類の作成、税務相談の税理士業務を行ってはならないこととされています(税理士法2条、52条)。
税務代理
税務代理とは、税務官公署に対する租税に関する法令若しくは行政不服審査法の規定に基づく申告、申請、請求若しくは不服申立てにつき、又は当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行することを言います(税理士法2条1項1号)。
税務代理には法律行為だけでなく、事実行為も含むものとされていますので(税理士法基本通達2-4)個別のマンション管理組合の具体的事案について、マンション管理会社の担当者が、マンション管理組合に代行して、税務当局との間で事実認定、法解釈等の陳述を行うことは、税理士法に抵触する可能性があります。
税務書類の作成
税務書類の作成とは、税務官公署に対する申告等に係る申告書等を作成することを言います(税理士法2条2項2号)。
収益事業の税務申告に添付する計算書類(損益計算書、貸借対照表)は、もともと税法の規定に基づき作成されるものではないから、たとえ、税法上、申告書等の添付書類として提出が義務付けられていたとしても、税務書類の範囲には含まれません。
税務相談
税務相談とは、税務官公署に対する申告等、税務官公署に対してする主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずることを言います(税理士法2条1項3号)。
「相談に応ずる」とは、具体的な質問に対して答弁し、指示または意見を表明することを言うものであり(税理士法基本通達2-6)、仮に仮定の事例に基づき計算を行うことまでは含みません。また、一般的な税法の解説なども税務相談には該当しません。